頭が割れるように痛い。

頭の中から重い鉄球を頭蓋骨に叩きつけられているように、

息をするたびに痛みが骨に響いて視界がぐらりと回る。

 

体は、血液に溶けた鉄を流し込まれたように熱い。

荒い呼吸を繰り返す喉は灼けて、呑み込む唾は血の味がした。

 

出来ることなら、頭を思い切り壁に打ち付けてやりたいが、

手術で切られた神経がまだ繋がらないのか、体を起こすどころか腕を上げることも叶わない。

 

あまりの痛みに意識を失い、再び痛みで目を覚ます。

そんなことを繰り返して3日が過ぎた。

一向に痛みは治まる気配がない。

気がおかしくなりそうだ。

 

 

「様子はどうだ?」

 

暗い部屋に突然差したドアからの光に、俺は目を細めた。

俺に邪眼を移植した男が、見下した目で俺を見おろす。

 

見ればわかるだろう?調子がいいように見えるか?

 

そんな悪態をつくことすらできずに、俺はただヤツを睨みつける。

 

「そうか。ではまた様子を見に来る。」

 

そんな俺を見て、時雨はあっけなく踵を返した。

この男は、手術以来、毎日様子を見に来て、同じことを訊く。

そして何もせずに去っていく。

 

「・・ま・・て・・・・」

 

渇ききった喉から絞り出した声は老人のように掠れた。

 

「みず・・を・・よ・・こせ・・」

 

三日三晩何も食べず、水すら口にしていなかった。

身体は燃えるように熱く、とにかく喉が渇いていた。

 

時雨はゆっくりと振り返ると、非情な目で俺を見た。

 

「御主はものの言い方がわかってないようだな。」

 

ただ体を横たえたままで、ひたすら痛みに耐えることしかできない。

自分一人では何ひとつできない。

痛みと自分のすぼらしさに涙がにじむ。

 

「・・・・み・・ずを・・くれ・・・」

 

まともに寝ていない身体も精神も、もう限界だった。

 

「きが・・おか・・し・く・・なり・・そう・・だ・・・・・。 どう・・に・・か・・してく・・れ・・・・」

 

その言葉に時雨がフンと笑う。

 

「やっと弱音を吐いたな。三日か・・・、まあもった方だ。褒めてやろう。

だがこの程度の痛みに耐えられないようでは邪眼を自分のものにすることはできないがな。」

 

こいつ・・・!

 

時雨の言葉に俺は、自分が試されていたことに初めて気づいた。

だが、もう怒る力も残っていなかった。

 

時雨に上半身を支えられ、口に添えられた碗から、俺は夢中で水を飲んだ。

薬湯の混ぜられたぬるい水は、決して美味くはなかったが、

水分が喉から体中に染みわたっていく感覚に、生き返る心地がした。

 

飲み終わると、途端に眠気が襲ってきた。

 

「一つだけ言っておくが、これは麻酔でも痛み止めでもない。邪眼を移植した痛みは完全に消し去ることはできん。

ただ紛らわすだけだ。」

 

時雨の言葉も、もうはるか遠くで聞こえる。

俺は何日かぶりに眠りに就いた。

 

****

 

目を覚ますと、まだ頭の中では激痛が続いていたが、前ほどの痛みはなくなっていた。

腕に繋げられたチューブから、強制的に栄養剤が流し込まれ、体も少しは動くようになっていた。

 

だがそれ以上に、体中を襲う妙な感覚に戸惑った。

身体が、とりわけ下半身が熱い。

見れば、服の上からわかるほどに盛り上がった自分の下腹部。

 

あのインチキ整体師め・・・なにをしやがった・・・?

 

だが、考えても「出したい」という衝動はますます大きくなるばかりで、

自分自身がはちきれんばかりに膨らんでいくのがわかる。

緩慢な動きで腕を伸ばすが、まだ神経のつながりきらない指はうまく動かず、ベルトをはずすこともままならない。

 

その間にも体の中から湧き上がる衝動はますます強くなり、体が痙攣を始める。

息が上がり、声が出そうになる。

 

こんなところを、時雨に見られたら・・・

 

俺の不安はすぐに現実のものとなる。

 

「起きたか?」

 

タイミング悪く部屋に入ってくた時雨が、顔を赤くして悶える俺の様子をみて僅かに口角を上げる。

 

「・・・何を、しやがった・・?」

「言ったはずだ。痛みを『紛らわす』だけだと。薬のせいで、御主の脳が痛みを別の感覚に置き換えているにすぎん。

しかし・・・その体では辛そうだな。」

 

時雨の手が俺の下半身に伸びる。

 

「やめろっ・・・ヒァッ!」

 

ベルトに手を掛けられ、拒絶の声を上げるも、張りつめた先端に指先が当たっただけで、

信じられないような声がでてしまって、俺は熱くなった顔を時雨から背けた。

 

時雨は手慣れた様子でベルトを外し、すっかり上を向いた一物を空気に晒すと、無表情のまま扱き始めた。

 

「んアッ!・・・んッ・・ハッ・・んんッ・・・」

 

女みたいな甲高い声が自分の喉から出てくることに驚き、必死で声を殺した。

今の自分の状況に気が狂いそうになる。できることなら今すぐコイツを殺してしまいたい。

だが、扱かれる度に、脳天へ突き抜ける刺激によって痛みが和らげられることに気づいてから、

体が自由にならないことを自分への言い訳にして、体を委ねた。

 

「ンッ・・ハァッ・・ァアアッ!!」

 

結局ヤツの手の中に放ってしまった。

射精の後の虚脱感と共に冷静な自分が戻ってくる。

と同時に痛みも、体の疼きもまた戻ってくる。

今出したばかりだというのに、むくむくと再び頭をもたげる自分自身に、顔が熱くなる。

 

それをみて時雨が呆れたように笑う。

 

「なかなかの好きものだな。」

 

再び自分のモノに手がかけられる。

俺はただ顔を背け、体をよじって声を殺すことしかできない。

 

「んふっ・・ふっ・・ンッンンッ・・ぁアアッ・・・」

 

結局、三度ヤツの手の中に放った。

恍惚とした意識の中で、鋭い痛みが鈍い痛みへと変わっていくのを感じた。

はぁはぁと荒い息を吐きながら見上げると、時雨が意外な顔で俺を見おろしていた。

 

「なるほど・・・。御主には、男を魅する素質があるようだな。」

 

そう言うと、ヤツは俺のズボンを一気にずり下ろし剥ぎ取った。

 

「き・・さまッ!なに・・をっ?!」

「御主だけがいい思いをするのは少々割に合わないのでな。ワシも少し楽しませてもらうぞ。」

 

目を見開く俺に時雨は無感情に言い放つ。

 

「それに・・・こういうことを知っておいた方が、後々役にたつかもしれぬ。」

 

自由にならない両足が大きく左右に開かれる。

裂かれるような痛みが俺を貫いた。

 

 

****

 

 

・・えい

 

「飛影・・?」

 

呼ばれて、意識を戻すと、自分に覆いかぶさった男を見上げた。

 

「どうしたの?ぼんやりして。」

「なんでもない・・・。昔のことを思い出しただけだ。」

「昔のこと?貴方が思い出に浸るなんて珍しいね。」

「フン・・・いいからさっさと動け。」

「はいはい。」

「ん・・あッ・・」

 

体の中をえぐる肉棒の鈍重な感触に身を委ねながら、

再び俺は、自分の上で夢中で腰を振る男の秀麗な顔を仰ぎ見た。

中に力を込めて締めつけてやれば、男は顔を恍惚の表情に歪ませる。

 

かつて色事師として名を馳せた美しき妖狐。誰もが憧れ手に入れたいと願ったその男が、

今は俺に惚れこみ、俺を愛していると言う。

俺は今一度意識を過去に潜らせ、あの時言われた言葉を思い出した。

 

確かに、貴様に教えられたことは役に立ったな。

 

目の前に垂れ下った長い髪に指を絡め、ぐいと自分の方に引き寄せた。

男は、嬉しそうに唇を寄せる。

甘美な口づけに酔いしれながら、いつしか昔のことはどうでもよくなっていた。

 

「蔵馬・・・」

 

俺に魅せられた男の名前を、熱を帯びた声で呼んで、意識は快楽の海へと沈んでいった。

 

 

Fin.

 

 

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